東京の地産地消

【東京】懐かしくて新しい。中野の老舗ラムネメーカーの実力がすごい!

2015/10/27 14:51

毎年、新商品が開発されている清涼飲料水。コンビニの冷蔵庫はさながら人気商品の展示箱のようです。そんな清涼飲料水にあって、ラムネにどこか懐かしさを感じてしまう人も多いのではないでしょうか。

東京の地産地消をテーマにおくる今シリーズのトップバッターは、そんなラムネを1929年の創業以来続けている「東京飲料」です。東京・中野区の住宅街にある昔ながらの町工場といった趣が漂うその会社を訪ねてみました。

ラムネを大手飲料メーカーが発売しないのには理由がある

西武新宿線・新井薬師駅で下車し、中野通りを横切り徒歩数分の住宅街の一角に「東京飲料」はあります。年季の感じられる外観や大きなダクトは、昔ながらの町工場のような佇まい。精密機械を製造するかのような大手飲料メーカーとはまるで違います。

最寄り駅は西武新宿線新井薬師駅。

駅を降りて、中野通りを通りすぎてお隣の沼袋駅方向へ。

「当社が創業した1929年頃は、このあたりは畑ばかりだったそうです」というのは寺田龍社長。都内にも中小の飲料メーカーはあるものの、事務所と製造工場が一緒の敷地内にあるのは珍しいそうです 。

住宅の一角に昭和の匂いが漂う町工場風の建物が・・・。

屋上にも商品ケースがたくさん積み重ねられています。

もともとラムネは、大企業と中小企業が共存共栄していくために設けられた「分野調整法」という法律により、中小企業のみが製造できる品種と規定されています。大手飲料メーカーがラムネを販売していないのもそのためです。ちなみにラムネ以外には、びん詰めコーヒー飲料、びん詰クリームソーダ、ポリエチレン詰清涼飲料、シャンメリー、焼酎割り用飲料もそれにあたります。同社では、そのうちラムネ、焼酎割り用飲料、シャンメリーの3種類を製造しています。

洗浄したラムネビンをラインに並べます。これも手作業です。

ラムネが充填された後、不純物が混ざっていないか目で確認します。まさに熟練の技です。

さて、ラムネというとビー玉を栓代わりにする独特の形状のビン。もともとはイギリスで発明されて、日本には明治20年頃に伝わったそうです。ところが、今から30年くらい前から、ビンではなくプラスチックボトルやワンウェイガラスビンと呼ばれる使い捨て専用のものが主流になりました。ラムネのビンはきれいに洗浄してから再使用でき、ビー玉をフタ代わりにするためゴミもでないので究極のエコ。それなのに、今はほとんど目にしなくなったのはどうしてなのでしょうか。

今は全てガラスでできたラムネ瓶は市場であまり目にしなくなった。

「ラムネビンは、まず先端がすぼんでいない状態でびんを作り、そこにビー玉を入れて最後に口を絞って作ります。この工程を全て職人さんたちが手作業で作っていたんですが、もうびんを作る職人がいなくなってしまったんです」

一時は海外でビンを作るようになったものの、 技術面や精度面で劣っていたため、海外ルートでの製造も断念せざるをえなかったとか。

スーパーやコンビニなどでラムネが取り扱われるようになると、重いガラス製のビンよりもプラスチックボトルが重宝され、また、子どもが多いお祭りなどのイベントでは「ガラスビンを落として割れたら危ない」という意見も出るようになり、昔ながらラムネビンのラムネは、ほとんど市場には出回らなくなったそうです。

商品名が入ったフィルムも手作業で。

象の鼻のように重ねたフィルムを素早くラムネの口に。

中野らしく「萌えキャラ」をモチーフにしたご当地ラムネ

ラムネは、英語の「レモネード」がその由来になっているようにレモン味が定番です。

「正確にいうとライムフレーバーも加えた“レモン・ライム風味”です。ラムネの名が定着する前は、炭酸ガスが泡立つ様子から“沸騰水”と呼ばれたり、舌にジンジンときてヒヤーッとするところから“ジンジンビヤ”と呼ばれたりすることもあったと聞いています」

同社のラムネはレモン・ライム風味のほかに、メロン味、ブルーハワイ味、桃などと味のバリエーションも豊か。

「15年以上前からこれらの味を製造しています。作ったきっかけは、あるお祭り業者さんから“かき氷のシロップみたいな何種類かの味があるラムネはできないの?”と聞かれたからです。そこで、おもにメロン=緑など、かき氷シロップの色的な定番を選んで作りました」

工場のラインで働く社員は4名。誰一人欠かすことができない重要なメンバーなのだとか。

夏場(7~8月)の最盛期には1日18,000本が製造されるそうです。

箱詰めされたラムネ。

配送用トラックもどこかノスタルジックな雰囲気が漂います。

同社の挑戦は味だけではありません。同社がある中野はオタクの聖地として知られていることもあり、「萌えキャラ」をラベルに使ったオリジナルラムネを発売しています。

「お米の『あきたこまち』が萌えパッケージにしたところ、爆発的にヒットしたことをヒントにしました。飽きられないようにするために、版下を印刷メーカーと相談した結果、12キャラを1版で印刷してもらえるようになりました」

ちなみに萌えラムネは地元商店街のほか中野区内のお祭りなどのイベントなどでも販売されることがあるとのことです。

萌えラムネのキャラクターたち。(東京飲料株式会社ホームページより)

キリンとのコラボから誕生した「ナカボール」は、中野の新しい味に

同社の商品の中で、今注目を浴びているのが「ハイ辛」です。もともと焼酎割り用飲料として開発されたものでしたが、2013年に、キリングループ本社の中野移転に伴い、キリンのジョニーウォーカー(赤・黒)と東京飲料のハイ辛がコラボ。ナカボールという中野区内の飲食店限定のオリジナルハイボールとしてお披露目されるや、その知名度がアップしたそうです。

「キリンさんのおかげでハイ辛の知名度もグッと上がりました」という寺田龍社長

ほどよいジンジャーの香りとピリッとした刺激的な辛さが、ジョニ赤に合う。

「ハイ辛は『焼酎の割り用飲料として辛いものがあったら面白い』という従業員の意見がヒントになって開発を進めました。思ったとおりの香辛料エキスを手に入れることができず、材料探しに1年以上かかりました」

中野区限定のこの「ナカボール」は、中野区内の居酒屋さんなど約160店舗で扱われるヒット商品に。
「宣伝力を含めたキリンさんの力は凄いなと思いましたね。私たち単独で営業をしていても知名度の点で難しいところもあったのですが、キリンさんと一緒に商品を売るようになってからは、一気に買ってくれるお店が増えました」

現在、同社は野菜を材料にしたサイダーの開発を進めているそうです。

「世の中の健康志向に合うようヘルシーな機能性ドリンクを目指しています。候補としてはトマト、ニンジン、カボチャがありますが、来年あたりにトマトのサイダーを商品化できればと思っています」

来年の商品化を目指して、トマトを原料にしたサイダーを開発中。(画像は試作段階の物)

ノスタルジーだけではない。常に新しいものに挑戦する姿に共感

中小企業が新商品を開発するのは、開発コストなどの面で非常にリスクが高いといえます。しかし、同社ではそこにあえて挑戦して、斬新な飲料を生み出しています。その姿勢に強く共感を覚えるのは筆者だけではないでしょう。そんな方は、今週の週末は中野に出掛けて「ナカボール」で乾杯してみてはいかがでしょうか。

この記事のプレース
東京飲料
東京都中野区新井4-8-7
詳しい場所を確認する
この記事を書いたライター
胆石持ちのフリーライター。企業ネタをはじめ健康ネタから街ネタまで幅広くカバー。結婚しないキャラで通してきたが、最近ではすっかり「結婚できない」キャラに変貌。
<連載> 東京の地産地消