大江戸線新御徒町から徒歩1分、JR御徒町駅からは8分ほど歩いたところにある「TOIQUE(トイーク)」は、大人が本気で楽しく遊べる“大人向けのおもちゃサロン”である。日本国内はもちろん、世界中から集めた多種多様なおもちゃの中から、その人にピッタリのおもちゃを提案しているという代表の清水 郁翔(しみず いくと)さんにインタビューした。
−お店のコンセプトを教えてください
「大人にもっとおもちゃを知ってもらいたい!遊んでもらいたい!楽しんでもらいたい!」をコンセプトに、大人が色々なおもちゃで真剣に遊べる場所です。初めはカフェとしてオープンしたのですが、お客様に一人一人に合わせた「遊び」についてのご説明をし、本気で楽しんでもらうために“完全予約制のサロン”に変えました。遊びの中から様々な発見をしていただきたい、「遊び+α」についてお伝えしていきたい、と考えています。
−お店を始めたきっかけは何でしょうか
大人が周りの目を気にせずに、本気で遊べる場所を作りたいと思いました。そして、その方にとって、「一番のおもちゃ」を発見出来る場所を提供したい。「TOY」+「UNIQUE」という店の名前に、その思いを込めています。そんな風に思ったきっかけは、スイスのおもちゃ屋に見に行った体験です。
−スイスでの体験とは?
仕事でスイスに行く機会があり、当時の社長が「休みを取っておもちゃを見てきていいよ」と言ってくれ、現地で色々なおもちゃを見に行きました。実際に色々と見て気が付いたのは、「全然おもちゃを知らない!」ということでした。おもちゃが好きで、普段からよくおもちゃ屋に行っていたので、色々なおもちゃを見ていると思っていました。しかし、見たことがあるものも沢山ありましたが、知らないものもかなりあったのです。おもちゃを知っているつもりになっていたと、愕然としました。
−「知らないおもちゃがまだまだある」と気づかされた体験だったのですね
そうですね。「“おもちゃ好き”でも知らないということは、普通の人はもっと知らない。大人がおもちゃを知って遊べる環境は殆ど無い。」と気が付いたのです。実際に買うのはほぼ大人なのに、おもちゃ屋は子供向けに作られています。大人がサンプルのおもちゃに触れることはあるけれど、本気で遊ばないですよね。でも遊ばないと、そのおもちゃの楽しさは分からないんです。普通の大人は、おもちゃで遊ぶ機会は殆ど無いので当たり前のことなのですが、そういう方たちが親になり、改めておもちゃに触れて購入する時に、果たしてベストチョイスが出来るのだろうか?情報が足りないのでは?でも、おもちゃの情報って何だろう?と考えました。考えた末に出た答えが、「遊ぶこと」です。たとえデザインが良くても、敏腕店員がオススメしてくれても、実際に遊んでみないと分からない。「まずは、沢山あるおもちゃを知ってもらう必要がある」と思ったんです。
−来店したお客さんにはどんな体験をしてもらいたいですか
まずは、楽しんでもらいたいです。本気で遊ぶと結構疲れるのですが、スポーツをした後のような爽快感もあります。色々とおもちゃで遊んでいくと、おもちゃの好みなどが徐々に分かってきます。そうすると、自分自身を含め、遊んでいる人の意外な一面が見えてくることもあります。これが、コミュニケーション力に繋がってきたりします。「遊びってスゴイな」と感じてもらえたら最高です!
−パズルやボードゲームだけでなく、「大人も本気になっておもちゃで遊ぼうということ」でしょうか
大人というか、「生産年齢の世代」が遊ぶことこそ、一番意味があると思っています。各世代を繋ぐ核になる世代だからです。最近の子どもはスマホを上手に使います。それは、周りの大人がそれだけスマホを使っているということですよね。子どもは、周りの大人が真剣にやっていることを真似したがります。おもちゃは”子供のもの”ではなく”子どもから遊べるもの”なんです。
−確かに、おもちゃに「子ども」と「大人」の線引きは要らないのですね
そうなんです。海外のゲームには、対象年齢に4-99といった表記があるんですよ。パズルなども決して大人向けのおもちゃではありません。難しい知恵の輪でも、与え方次第ですぐに解けてしまう子供もいます。大人は「子供が何で遊ぶか?」と考えますが、実は「どんな環境で遊ぶか」ということも重要なのです。周りの大人が子供を遊びに巻き込んでいける環境があることが理想ですね。
−サロンにあるおもちゃは、どんなものがどのくらいあるのでしょうか
サロンで遊んでいただけるものとしては、200~300個程はあるかと思います。種類は、「積み木やブロック、パズル、ボードゲーム」などが中心となりますが、駄菓子屋さんで売っているような駄玩具から、科学的な仕組みで動くおもちゃ、海外の高級な組木など、幅広く様々なおもちゃがあります。ご覧いただくのみとなりますが、昔の貴重なおもちゃなど私の個人的なコレクションも100点くらいあります。
−世界各国のおもちゃもあるそうですが、国によっておもちゃの特徴や違いはありますか
見た目の特徴でいうと、日本とヨーロッパでは使われる中間色が全然違います。日本では柔らかい色が多いですが、ヨーロッパですと、強めの色が使われます。ゲームの種類で言いますと、ドイツはボードゲームの種類が豊富です。ボードゲームが根付いているからなのか、素晴らしいゲームが沢山あります。
−日本の珍しいおもちゃにはどんなものがありますか
2014年、当店で復刻した「鼠の板渡り」という郷土玩具です。郷土玩具というと、だるまやこけし、張子というイメージを持たれると思いますが、からくり玩具も色々とあります。あとは、山口にいるオートマタ作家の原田和明さんのユーモアのある作品や、富山のペーパークラフト作家の中村開己さんの、紙で作るからくりおもちゃ「カミカラ」などは、普通のおもちゃ屋さんでは、なかなか見られないですね。
−サロンで一番人気のおもちゃは何ですか
一番人気ですと、もう販売はしていないのですが「KUBANA」という「立体四目並べ」かなと思います。見た目がとても綺麗で、ルールも単純なので人気があります。「○×ゲーム」というのをやったことがある方も多いと思いますが、それが、「平面の三目並べ」と言われているのに対し、「四目並べ」は、自分の色を4つ直線に並べれば勝ちです。ただし、立体になるので、4×4×4で出来ている空間の中で並べます。文字で書くと分かりにくいのですが、一度遊んでもらうと、すぐにその面白さが分かるかと思います。
−お客様に喜ばれたことなど、お客様に関するエピソードがありましたら教えてください。
一番印象的だったのは、カフェ時代にとあるカップルが来て下さり、カウンターに座られて、からくり箱などのパズルのおもちゃをお二人で色々と楽しんで下さいました。それから、時が経ち、カフェからサロンへと業態変更をしました。ある日「これからそちらに行きたい」と男性の方からお電話がかかってきました。なんと「彼女にプロポーズするので、あの時のからくり箱に指輪を入れて渡したい」ということでした。「付き合いたてのデートで訪れたこの店での時間が本当に楽しかったら」という理由でした。そのお話を聞いた時は、嬉しくて涙が出そうでした。そして「子どもが出来たら、連れてきたい」とおっしゃっていただきました。最高に有難く幸せな一言でした!
−お店で大切にしていることは何でしょうか
“来てくださった方が、どんなおもちゃが好きなのか?”ということを第一に考えています。それに合わせてゲームをご提案するのですが、ちょっと違ったタイプのものも必ずご提案するようにしています。
−“お客さんにあったおもちゃ”はどのように選ぶのでしょうか
どんなおもちゃが好きか、どんなおもちゃがやりたくて来られたのか、昔はどんなおもちゃが好きだったかということを質問しながら、具体的なものをいくつか提案していきます。アンケートというよりは、普通の会話からという形です。また、ご予約いただいた時にも、どんなおもちゃで遊びたいかを伺って、事前にどんなものが良いかを考えるようにしています。“得意=好き”ではないわけですし、「食わず嫌いのように、避けていただけど、遊んでみたら楽しい」というものや、「昔は苦手だったけど、今は得意」なんてことも結構あるのです。
−例えば私はジェンガが好きなのですが、どんなおもちゃがおすすめですか
バランスを使ったゲームなどがオススメですよ。“スティッキー”やワニに乗る“クーデルムーデル”“マタンガ”“ドブルキッズ”などです。一人で遊ばれるのであれば、“ロンドローロ”“パープレクサス”“けん玉たまご”あたりをお勧めします。いくつか提案させていただいて、「やってみたい」というもので遊んでいただきたいです。ちなみに、お一人でご来店される場合でも私自身がお相手して様々なゲームを体験していただいておりますので、ご安心を(笑)
−清水様にとって「おもちゃ」とはどのような存在ですか
私にとってのおもちゃは、人と人とを繋ぐための道具かなと思っています。おもちゃが嫌いな人ってあんまりいないと思うんです。おもちゃは色々な人を笑顔にしてくれます。ただ、おもちゃは凄い力を持っているけれども、引き出す人がいなければ意味がないと思うんです。私自身、おもちゃに関わるようになってから、色々な方と知り合うことができ、世界がどんどん広がっていることを実感しています。