<連載>公園散策20年の公園マイスター直伝!東京公園ガイド-Vol.8-

【東京】明治のロマンティックとグルメを堪能できる、日比谷公園

2015/10/20 10:01

ビジネスマンの憩いの場としても知られる日比谷公園は、明治36年にオープンした日本初の洋風近代公園。この日比谷公園ができるまで、公園といえば日本庭園でした。
「首都にふさわしい近代的なものを」との考えから作られた図書館、公会堂、テニスコート、大小2つの野外音楽堂といった施設は、110年以上経った今も都民の生活に役立っています。
明治時代に活躍したアーク灯など、歴史を感じさせるものが随所に見られるのも魅力。定番の見どころとトリビアを中心にご紹介します。

江戸時代の名残がうかがえる「心字池(しんじいけ)」

最寄り駅は東京メトロ「霞ヶ関」駅、「日比谷」駅、JR「有楽町」駅。今回は皇居側、交番の脇にある有楽門から入ります。

入り口から道は二手に分岐。左手の石段を上がります。

道を挟んで日比谷公園の隣にあるのは皇居、つまり旧江戸城です。いま日比谷公園がある場所は、江戸時代は大名屋敷があった場所で、江戸城を守る堀や城門、城を警備する武士が詰める番所もありました。有楽門を入ったところにある「心字池」は、当時のお掘の一部が姿を変えたもの。石段の上からは池全体がよく見えます。

日当たりのいい石垣の上にはベンチがあり、ひなたぼっこに最適。よく仕事途中のサラリーマンがひと息入れています。つかのま殿様気分を味わってから、また仕事に戻るのでしょうか。ちなみにこの公園はベンチが多いことでも有名。利用する人が多いのでしょうね。

石垣の上を進んで階段を下へ。
洋食レストラン「日比谷パークセンター」の脇から池を眺めると、石垣、柳、松などにお掘の面影が感じられます。近代的な公園を目指しながらも、古いものの名残をとどめておきたい気持ちがあったのでしょうか。

池の向こう岸。松など少し和の雰囲気は残りますが、かなり洋風の印象が強まります。

ペリカンの噴水がユーモラス!映画のセットのような「第一花壇」

池沿いを歩いて再び公園の端へ行くと、バンガロー風の洋館「フェリーチェガーデン日比谷」があります。明治時代に公園事務所として建てられたものですが、現在は人気の結婚式場になっています。鉄筋コンクリート造りの建物と木造の建物があり、木造の方は東京都有形文化財に指定されています。
近くにはビアレストラン「HIBIYA SAROH」があり、ビールに合う料理も豊富に取り揃えているので、おいしいビールが飲みたいときはぜひ。

洋館の向かいには芝生の広場、その手前には花壇とペリカンの噴水があります。向かい合った2羽のペリカンが、頭をそってくちばしから水を噴き出す様子はちょっぴりユーモラス。スズメがくちばしに止まって水を飲むことも。

この一帯は「第一花壇」。ロープが張られていて、芝生には入れません。踏まれていない芝生は美しく、まるで緑のじゅうたん。盛り土の花壇やうねる小道もレトロな雰囲気で、映画のセットのようです。ベンチに腰かけていると、時間がゆったり静かに流れていく気がします。

「第一花壇」の奥には、ローマ建国の神話「ルーパロマーナ」の像がひっそりと建っています。狼に育てられたロムルスとレムスの兄弟が英雄になって帝国を築く話、といえばわかるでしょうか。
昭和13年にイタリア大使館から東京都に寄贈されました。幼子が狼の乳を飲んでいる様子は少し異様で、何も知らずに見るとちょっとドキッとしてしまいます。

夜のライトアップもロマンティック。公園のシンボル「大噴水」

桜門からのびる広い道に出ると、昔ながらの売店が目に留まります。置いてあるのはチョコレートやスナック菓子など。ビジネスマンが多い場所柄でしょうか。タバコの銘柄が豊富と評判です。

「草地広場」からは、子どもたちの楽しげな声が聞こえてきます。丸の内や官庁街などのビジネスエリアに囲まれた日比谷公園ですが、子どもが遊べる場所がちゃんとあるのです。それも、ターザンロープや吊り輪など本格的な遊具がそろった広いスペース。木のテーブルもあり、休日にはピクニックを楽しむ人の姿も見られます。

昔から公園のシンボルとして親しまれている「大噴水」は、月に1度の清掃日を除いて毎日8時から21時まで稼動。夜には照明も点灯します。
12メートルの高さまで噴き上がる様子は、見飽きることがありません。

「第二花壇」では秋バラが咲いていました。

こちらも芝生には入れず、並木道に沿って設置されたベンチでは、さまざまな人が読書や語らいにふけっています。

「第二花壇」の端にある大きな時計は、昭和58年に設置されたソーラー時計。日光を電気に変える太陽電池で動いています。ソーラー時計の正面から「大噴水」を見ると、背景のビル群と木々がきれいな「V」の字に見えますよ。

絵になる「鶴の噴水」は、都心の寒さのバロメーター

「第二花壇」西側の林を散策していると、ハニワに遭遇します。多くの人は、あまりの唐突さに思わず笑顔になります。宮崎県立平和台公園が日比谷公園の姉妹公園となったことを記念し、多くの古墳がある宮崎県が東京都に贈ったもの。
土偶は大きいと不気味に感じる人もいるでしょうが、こちらにあるのは小さいので可愛らしい印象。ほっこりした気持ちになります。

公園のほぼ中央にあるのは、フレンチレストラン「日比谷松本楼」。日比谷公園の誕生と同時にオープンした老舗レストランで、夏目漱石や松本清張の作品にも登場します。
昭和46年に放火によって焼けてしまいますが、多くの人の励ましを受けて復興しました。その支援に感謝して店が始めたのが、名物「10円カレー」。通常880円のビーフカレーが、毎年9月25日に限り先着1500人に10円でふるまわれます。

樹林帯の中にある「雲形池(くもがたいけ)」の一番の見どころは、池の中で翼を広げて空を見上げる鶴の噴水。厳冬期になると、くちばしから吹き上げた霧状の水が翼に落ちて凍りつき、びっしりとしたつららができることで有名です。都心の寒さのバロメーターとなっていて、よく天気予報で取り上げられます。
もちろん、つららがなくとも人気があり、高貴な雰囲気を感じさせる姿に、来園者の多くがカメラを向けます。

「霞が関」駅から近い霞門近くにたたずむフレンチレストラン「日比谷パレス」では、貸し切りで結婚パーティーが行われていた模様。純白のウェディングドレスに身を包んだ女性が入って行くのを見かけました。「フェリーチェガーデン日比谷」と同様、こちらもレストランウェディングで人気のお店。土日祝日は結婚式でお休みですが、平日ならランチ、ティー、ディナーでの利用ができます。

「野音」の愛称で知られる日比谷大音楽堂の方へ向かうと、ナチュラルな雰囲気のカフェテラス「日比谷グリーンサロン」があります。気軽に入れるセルフサービスのお店で、とんかつやハンバーグなど、ボリューム満点のメニューがそろっています。
日比谷公会堂付近にも、日本家屋のフレンチレストラン「南部亭」をはじめ、日比谷図書文化館内にある「ライブラリーショップ&カフェ日比谷」、蓄音機など昭和初期の面影を色濃く残す喫茶店「アーカイブカフェ」といった食事処や喫茶店が点在しています。

知られていない見どころが満載!

日比谷公園といえば、芝生の広場と大噴水。そのイメージが強過ぎて、他の見どころが忘れられがち。ぜひ足を運んで、風情ある池や明治時代の様式美溢れる名跡、遊具の充実した広場や図書館など、多彩な魅力を確かめてほしいと思います。園内に点在するレストランも名店ぞろいで、ここだけでグルメ特集ができそうなほど。公園遊びの合間にレストランやカフェでお腹を充たせば、一日はあっという間です。見どころもメニューも季節ごとに変わるので、きっと何度でも訪れたくなることでしょう。

この記事のプレース
日比谷公園
東京都千代田区日比谷公園1-6
詳しい場所を確認する
この記事を書いたライター
フリーライター。1976年生まれ。広告制作会社、新聞社等の勤務を経て独立。飲食店取材や街頭インタビューで都内を駆けまわる一方、休日は愛用の一眼レフを手に山や植物公園に出没。公園巡りを始めて20年余。季節ごとの魅力や楽しみ方を知り尽くした「公園マスター」。東京都内の公園はすべて網羅し、公園ごとのオリジナル料理や飲み物、巨木は必ずチェックしている。旅と自然を愛し、ヨーロッパ諸国の他、アラスカやボルネオへの渡航経験がある。主な執筆ジャンルは食、自然、健康など。
<連載> 公園散策20年の公園マイスター直伝!東京公園ガイド