ここ数年でよく耳にするようになった「オーガニック」。いまやオーガニックライフは特別なものではありません。この連載では、“おいしく、楽しい”をキーワードに、誰にでも実践できる暮らしを豊かにするオーガニックライフのはじめ方を提案していきます。
オーガニックとは、<有機の>の意味で、通常は農薬や化学肥料を使わず、有機肥料のみによって生産された農作物のこと。普通のスーパーで十分なオーガニック食材を手に入れるのはまだ難しいのが現実です。「まずはオーガニックの野菜を食べてみたい!」そんな方には、ファーマーズマーケットに足を運ぶことをおすすめします。
ファーマーズマーケットとは、生産者が自分の商品を持って出店し、買い物に訪れた消費者と直接商品をやりとりする“市場”。ファーマーズマーケットのいいところは、鮮度はもちろんのこと、生産者の顔が見える安心感、おいしい食べ方や、どうやってつくられているかまで、その食材に一番詳しい生産者さんがなんでも応えてくれる点に他なりません。スーパーマーケットで並んでいるものを買うだけではない楽しみがそこにはあるのです。
日本でのファーマーズマーケットの先駆けとなったのが、今年で6年目となる青山ファーマーズマーケット。青山通りにある国連大学前広場で、毎週土日に行われています。
青山ファーマーズマーケット
Farmer’s Market @UNU
東京都渋谷区神宮前5-53-70
青山・国際連合大学前広場
毎週末土・日曜日 10時~16時
青山ファーマーズマーケットを立ち上げたメンバーの一人、若菜公太さんにお話をうかがいました。
以前はインテリアデザインの仕事をしていたという若菜さん。数人の仲間とともに青山ファーマーズマーケットを立ち上げます。東京のど真ん中で農家さんが対面販売するというあたらしいスタイルで、2009年9月からこの場所で定期的に開催しています。
「僕たちはファーマーズマーケットをイベントとしてやっているつもりはないんです。週末にしか営業していない“店舗”と考えて、この地域で暮らしている方の生活の一部になることを目指してきました。土日はここに来れば必ず農家さんがいて、新鮮な野菜を買える。今では、一週間分の買い物をしていく方、食材の仕入れに来る飲食店のシェフなど、多くの方にそのように利用してもらっています。
渋谷と表参道の間にあるこの場所は、ショッピングにやってきた通りすがりの方なども面白がって覗いてくれます。リピーターとはじめて訪れる方は半々くらいですね」
2015年で6年目、来場者数は1日1.5万人。南は宮古島のマンゴーから北は北海道のかぼちゃまで、登録出店者は650店舗にも上ります。週に80店舗が出店し、いつ訪れても活気であふれる場所になりました。
「来場者も出店者も、2倍、3倍と増えて行っています。震災をきっかけに、自分が食べているものに対して目を向けるようになったのではないでしょうか。ファーマーズマーケットに価値を見出してくれる消費者が増えたのを感じます」
キッチンカーによるフードやドリンクメニューも充実。中庭には飲食エリアがあり、家族連れや若者、昼休みのビジネスマンまでが訪れています。さまざまな人が集うオープンな場所です。
オーガニック製品のみを取り扱うショップやスーパーが軒を連ねる青山・表参道エリア。そこで行われるファーマーズマーケットと聞くと、「オーガニック食材のみを扱っている」と思われがちです。しかし、青山ファーマーズマーケットでは、出店者を「オーガニック農家のみ」と規定してるわけではありません。ですが自分の農作物に熱意やこだわりを持つ出店者が集まった結果、自然とオーガニック食材がたくさん並ぶようになったのです。
「我々は、出店条件でオーガニックとそうでないものの線引きはしていません。オーガニックだからなんでもいいのかと言えばそうでもないし、農薬を使っているからすべてダメかと言えばそんなこともない。農薬を使っているのなら、なぜ使っているのか? 使っていないのなら、なぜ使わずに栽培できるのか? そこを大切にしています。農家さんと消費者みんなが理解をして学んでいくことが大事なのです。
無農薬=○、農薬=×、と、記号で判断するのではなく、“この人の野菜を食べたいな”と思った農家さんと出会って、買ってもらえたら」
わたしたち消費者が農家さんと会話ができる機会は、今やほとんどありません。そこにモノだけがあっても、農家さんや畑との「つながり」を取り戻す根本的な解決にはならないのです。「農家さんがいないと僕たちの生活は成立しないことを思い出し、生産者と一緒に生きていく意識を持ってほしい」と若菜さんは言います。
「お客さんは、生産者との会話を通じて、これまで知っているようで知らなかったことを正しく理解できる。それが自身の食生活につながって行く。そうすると、料理することや食べることが楽しくなりますよね。“食べる”行為を大切にすることは、自分自身を大切にすることでもあります」
意識が変わるのはわたしたちだけではありません。生産者の方も、自分の商品を直接お客さんに売る機会はありませんでした。
「はじめの頃は、何を売っていいのか、何を話せばいいのかわからなかった農家さんも、出店を重ねていく中で、お客さんとのやりとりで売り方、話し方がどんどん変わっていくんです。次はこういう品種をつくってみよう、早めに収穫して小さいサイズを持って行こう、土がついたまま売ってみよう……。お客さんからの要望を取り入れて、工夫を凝らしています」
その通り、お店のディスプレイには工夫がいっぱい! 見たことのない食材やフレンドリーな試食販売、色鮮やかな野菜に食べ物の香り……。歩いているだけで五感が刺激されます。
「ファーマーズマーケットへ出店するくらいですから、みなさん柔軟で、向上心、探求心、伝えたいことがある人。こだわりは持ちながらも、あたらしいことにチャレンジする意欲のある方ばかりです。マーケットの和やかな雰囲気は、キャラクターのある良い生産者さんに恵まれたおかげだと感謝しています」
お互いが歩み寄ることで、畑と都会の距離が近くなる。食べる人のことを考えて農業をして、農家さんのことを考えて食事をする。「そんな食事ならいつもよりおいしいし、豊かですよね。僕自身もそう感じています」
青山ファーマーズマーケットの運営には、設営や販売のお手伝いをするボランティア、サポーター制度があります。サポーターが自主的に出店者の畑を訪れる農業体験を開催するなど、生産者との直接の交流も生まれています。
「マーケットへ足を運ぶと、いろんな地域のいろんな人と知り合えます。旅行のついでに農家さんの家に泊めてもらったり、畑のお手伝いをして、おいしいものを食べさせてもらったり、普通ではできない体験ができますよ」
青山ファーマーズマーケットを通じて、想像もしなかった縁がつながっていく……。農家になった人や、地元でファーマーズマーケットを開催する夢を叶えた人もいるそうです。農業についてもっと知りたい、応援したいと思ったら、サポーターとして参加してみてはいかがでしょうか。
最後に、はじめてファーマーズマーケットへ足を運ぶ人に楽しみ方を教えてもらいました。
「ぜひ出店者とたくさん話してください! 分からないこと、気になることを率直に聞いて疑問をクリアにすれば、楽しい買い物になります。毎週出店している方もいれば、月に1回、年に数回の方までペースはさまざま。季節によって作物が入れ替わるので、マーケットの色合いもまったく変わります。東京の真ん中で、こんなに四季を感じられる場所は他にありませんよ」
農家さんから直接買ったものは、不思議と丁寧にお料理をしたくなります。つくってくれた方に想いを馳せて食べると、いつもの食事も特別なものに。自分を大切にするとは、こういうことなんですね。
農作物、加工品、雑貨、飲食店……楽しみ方は人それぞれ。理屈をとっぱらって純粋に楽しい! おいしい! が体験できるのが、ファーマーズマーケットなのです。