【京都】国産丸大豆の“自然な甘み”にこだわる創業180年の老舗豆腐屋

2015/06/20 10:53

1834年(天保5年)に京都で創業した「賀茂とうふ 近喜」は、大切に守られてきた伝統的な豆腐作りを受け継ぐだけでなく、“バニラ豆腐”や“緑雨豆腐”などのユニークな商品にも挑戦する老舗の豆腐屋だ。「国産丸大豆ならではの自然な甘みを生かした当店自慢の“豆腐”や“お揚げ”を、若い人達にも是非一度食べていただきたい」と語る代表取締役の林 浩二さんにお話を伺った。

大豆そのものの甘味が味わえる“豆腐”と“お揚げ”

−お店のコンセプトを教えてください
京都の豆腐といえば”水が良いから豆腐も美味しい”というイメージがありますが、豆腐の味を左右するものは「水よりも大豆」と考えて、甘みがしっかりした大豆を使用した豆腐・揚げを作っています。大豆そのものの味をしっかり味わえる豆腐や揚げをお召し上がりいただき、お客様に喜んでいただければ何よりです。

甘みがしっかりした大豆を使用した、「豆腐」「揚げ」を作っている

−貴店が始まった背景についてお聞かせください
現在は六代目になります。初代は近江屋喜八(おうみやきはち)といい、近江商人でした。京へ出て、当初は「湯葉喜」の名前で湯葉を作っていたようです。三代目が豆腐作りを始め、店名も「近喜」と改めました。六代目になって「大豆そのものの甘みを生かした豆腐作りを」と考え、試行錯誤を重ねて、現在の豆腐・揚げになりました。

−店内の内装や雰囲気についても教えていただけますか
場所柄、間口が狭く奥に細長い、いわゆる「うなぎの寝床」です。「昔からの豆腐屋」といった雰囲気で、お揚げと湯葉を作っています。店に入ってすぐのところでお揚げを揚げていて、お揚げ用の豆腐が油の中に入りだんだんと伸びていってきつね色に色づいていく様子を見ることが出来ます。通りがかった観光客の方が、「お揚げってこんな風にして出来ているんだ」と感心して見入っていく方もいらっしゃいます。早朝には豆乳を炊いていて、大豆のいい香りがします。お豆腐は、平成になってから出来た木屋町のお店で作っています。

お店の様子

−どのようなお客様が多く来店されるのでしょうか
個人でご来店されるお客様が多いです。地元・京都でずっとお付き合いをいただいている方の他にも、百貨店さんの売場や催事でお買い上げいただいて気に入って下さった方などもいます。そういった方は、京都へ来られた際にお店にも寄って下さいます。お店さんは、祇園や東山の料亭さんや木屋町・先斗町のお店さんが多いです。歴史のあるお店さんや京都を代表するようなお店さんもいらっしゃいますので、とても有難く思うのと同時に、身が引き締まる思いをしています。

こだわりの豆腐やお揚げの美味しさを、若い人にも伝えたい

−来店したお客様に、お店でどんな体験をしてもらいたいですか
“豆腐といえばお醤油の味で食べるもの”“お揚げといえば薄くて歯ごたえだけのもの”と思われる方に、ぜひ当店の豆腐・揚げを召し上がっていただきたいです。また、豆腐やお揚げは”体に優しい和の食材”というイメージからか、どちらかというと年齢の高い方に支持されやすいですが、そのまま食べてしっかり味がする当店の豆腐やお揚げであれば、手の込んだ料理をしなくても十分に美味しいです。ぜひ若い方にも沢山召し上がっていただきければと思います。

−“国産の丸大豆”にはどんな特徴があるのでしょうか
輸入大豆に比べて国産大豆は、単価が高く、品種ごとの供給量が安定しないという欠点があります。それでも国産大豆を使う理由は、大きく2つあります。第一に、より安心・安全だと思うからです。輸入の際の残留農薬の問題ほか、海外では遺伝子組み換え大豆が広く作られています。日本で作られている大豆には遺伝子組み換え技術は使われていません。第二に、より豆腐向きだからです。海外の大豆は元々、油を取ったり飼料にしたりすることを目的としていて、日本の大豆よりも”脂質”がやや多いです。一方、日本の大豆は”たんぱく質”がやや多いことが特徴です。つまり、豆腐として固まりやすい大豆と言えます。

“国産の丸大豆”にこだわる

−どんな風に作ることで甘みを生かすことが出来るのでしょうか
大豆選び以外の点でいえば、大豆に合わせて豆腐を作ることが大切です。”大豆は生き物と考える”ということです。秋に収穫された大豆は、その瞬間から少しずつ弱まっていきます。春先には若々しくて力が強かった大豆も、梅雨を越え夏を過ぎるあたりには力が弱まってきます。大豆の調子と、日々の気温・湿度や水温の変化などを考え、大豆を柔らかくするために水につける時の温度や時間、にがりを入れる量とタイミングなどを調整します。このように、”大豆と話しながら決める”作り方をすることで、その大豆が持つ甘みを十分に引き出した豆腐・揚げを作ることが出来ると考えています。

”大豆と話しながら決める”作り方で

−お店で人気の商品にはどんなものがありますか
豆腐では、白大豆や青大豆の“おぼろ豆腐”、揚げでは“京揚げ”です。“おぼろ豆腐”は“汲み出し豆腐”とも言い、豆乳ににがりを入れて固めた豆腐を水にさらさずにそのまま容器に盛ったものです。水にさらしていない分、大豆が持つ味が水へ抜け出ていないので、よりしっかりした味をお楽しみいただけます。京揚げは油揚げですが、いわゆる京都型の大判サイズです。横は約30cm・縦は約12cm程あります。京都ではこのサイズが普通で、親しみを込めて「お揚げさん」と呼ばれます。当店では、この”お揚げさん”専用の豆腐を作り、菜種油で一枚ずつ手揚げして作ります。

青大豆の「おぼろ豆腐」

伝統的な豆腐だけでなく、ユニークで斬新な商品にも挑戦

−他店では見かけることのない、珍しいお豆腐などがあれば、教えて下さい

伝統的な豆腐だけでなく、新しい豆腐にも挑戦しています。中でも「緑雨(りょくう)豆腐」は珍しいもので、宇治抹茶で墨流し風に紋様を描いた絹ごし豆腐です。マーブル状の紋様が、豆腐の表面だけでなく中まで入っています。豆腐が固まるタイミングを見計らって抹茶を流し込んで作っています。試行錯誤を重ねて作りました。豆乳に混ぜ物をして固めた変わり豆腐はありますが、流し込んで紋様を描いた豆腐は中々無いのでは、と自負しています。

流し込んで紋様を描いた「緑雨(りょくう)豆腐」

−これから初めて近喜のお豆腐を食べてみたいと思っている方に伝えたいことはありますか
「美味しいお豆腐やお揚げは何もつけずにそのまま食べても美味しい」ということを、是非感じていただきたいです。豆腐や揚げは味がしないもの、と思われているのはとても残念です。人生の愉しみの何割かを損している、というのは言い過ぎですが、当店の気持ちとしてはそれ位の気持ちでいます。豆腐は大豆の旨みがします。「味がしないから醤油をかけて食べる」とは限りません。当店のお揚げは、湯通しや油抜きなしで使えますし、生のままでもお召し上がりいただけます。女将は「お揚げを嫌いて言うならうちのお揚げさんを食べてからにして」というくらいです。

−今度、どのようにお店を発展させていきたいと思いますか
これまでの定番は定番として大切にしていく一方で、ぜひ新しい発想で新しい定番を増やしていける、驚きのある店でありたいと考えています。ちょうど「世界の中の和食」として注目が集まっていることもあるので、「洋の食材と組み合わせた豆腐」などが提案できればと考えています。前に「バニラ豆腐」「珈琲豆腐」に挑戦したことがあり、これはこれで好評をいただいたのですが、「もっと気軽に・もっと自然に使える豆腐を作る」といったことを今考えています。

−お店の運営で大切にしていることはどんな点でしょうか
まずは創業から180年、京都の食文化の中で重ねてきた当店の豆腐作りの伝統を大切にしています。次に、その歴史に満足するだけではなく、新しいものに挑戦すること、この二つを常に意識して、日々、豆腐作りに精進しています。「家訓」や「秘伝の伝え」のようなものはありません。ただ、「手をかけたらそれだけいいものが出来る」という気持ちは、確実に代々受け継がれているように思います。180年六代それぞれ違う個性の持ち主ですし、作り方も商いの仕方も別々です。特に書き物のようなマニュアルを手渡さないということは、考えようによっては「自分で考え、自分で尽くせ」ということを、無言で教えているのかもしれません。

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この記事のプレース
賀茂とうふ 近喜
京都府京都市下京区木屋町松原上ル天王町142
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